絵の忘れ物

何かに夢中になると、激しく忘れ物をします。皆さんはいかがですか?

 中でも究極の、忘れられない「忘れ物」といえば、「作品」=絵です。
 かつて美術学校の副手をしながら、御徒町にあるアトリエに通っていました。
 その教室で、油彩テンペラの勉強をはじめて半年がたつころの話。

 古典絵画の模写をコツコツ描き続けて、ようやくはじめての一枚が完成近くなってきました。
 それまで描いていた、キャンバスに油絵の具、のオーソドックスな描き方と違い、 
石膏と膠をはかって板作りから始まり、慣れないハッチングに悪戦苦闘しつつ
 息を止めて金箔を貼り、、、磨き、、、、それはそれは膨大な時間と手間を費やしました。

 ある日の教室帰り、そんな大事な大事な作品を袋に入れて、帰路につく。
 電車が止まる気配でハッと目を覚ますと、最寄り駅に着いてました。
夜遅い時間だったので、慌てて下車して帰宅。
 部屋で、あれ?何かが足りない、、、身の回りを見ると あの大事な大事な作品がない!!
 電車の網棚に乗せた所までの記憶はある。
慌てて駅に電話するも、すでに窓口がしまってつながらず。 

とりあえず明日一番で、窓口に電話しよう と 
その日は眠りについたのでした 
明朝朝一番で 駅の窓口に連絡。この時はすぐみつかるとタカをくくってました。
 「忘れ物は、何ですか?」
 「あ、あの絵、絵画なんです!!」
 「え?はあ〜。で、どんな絵なんですか?」
 「あの、自分で描いたんですけど、えっと古い絵の模写で、背景に金箔が 貼ってあって、絵柄も昔の宗教画だから、見る人によっては、アンティークの 絵に見えるのかも、、」

 駅員さんは、遺失物が書いてある冊子をパラパラみてくれたが、それらしき忘れ物は見当たらず。

最寄り駅についた電車は、大抵、折り返し運転になので、 もしや あの絵は網棚にのったまま、また都内に戻ってどこかで 届けられてるかも、、、、
 半年もの時間を費やした作品。
しかも記念すべき一作目。 

あきらめきれない私は、学校帰り、外出先、、機会を見つけては、 中央沿線の全ての
”落とし物窓口”を全てまわりました。
 毎回、なくしたものを説明するのが大変なので、詳しく書いた紙まで コピーを用意してしらみつぶしにまわりましたよ!

そんな努力にかかわらず、絵は出てきませんでした。 
金銭ならともかく、絵画(金箔付きで価値はありだけど)。
 しかもお花の絵とか、かわいいものじゃなく、ちょっとシビアな内容の宗教画で。

 数ヶ月してまた最寄り駅での話。
 あきらめきれずに網棚を見ながら歩く私の目に、網棚の新聞を集めている おじさんの姿が入った。

この人なら何か知ってるかもしれない!!

 おじさんはいかにも"職業・自由人“といった風情。
話しかけるのを 一瞬躊躇したけど、思い切って、こういう忘れ物を探している、と 
声をかけてみました。
 最初、鋭く警戒していたおじさんも、話を聞き終えると 
「わかったよ。んじゃ、うちの“ボス”に聞いてみるからよ」
 「え?!“ボス”?!」
 「そう、うちの“ボス”なら何かしってるかも知れねえ」 

おじさんや仲間が集めた雑誌や新聞、時には忘れ物も? ”ボス”が管理し、
また販売したりするんだそうです。
 新宿の地下道でシートを広げ、雑誌を売る光景に思い当たる私。 
(ああ、拾って来たものだから新刊を安く売れるのかあ〜)
 
おじさんに連絡先を書いたメモを渡し、その場を去りましたが、
 頭の中は絵のことよりも、"ボス”がいるんだ!という発見でいっぱい。
 世俗と離れて一人で生活してる様に見えるおじさんが、
 やはりボスを中心とする会社みたいな組織の中で 生きていることが、ちょっと驚きでした。

結局絵は出てこず、これを機に、もっと本格的に古典絵画技法を学びたいと 
週一で通っていた御徒町の教室をやめて、
 北鎌倉にあった油彩テンペラ工房に通うことを決心しました。

 それと、おじさん達が生きる社会を垣間みたことは、 いまでも忘れられない記憶です。 
あの作品、今はどこにあるのかな〜〜

丁寧に時間をかけた贅沢な作品は、目に見えない時間を閉じ込めたもの。
それが飾られた場所の空気を本物にします♫

オーダー絵画、お描きいたします
画家 白川美紀の作品やプロフィールはこちら↓
公式FB・ Instagram ・blog 日々発信、よかったら繋がってくださいね
イタリアで美術を学んだ画家と、楽しい学びの時間

丁寧に時間をかけた贅沢な作品は、目に見えない時間を閉じ込めたもの。
それが飾られた場所の空気を本物にします♫

オーダー絵画、お描きいたします
画家 白川美紀の作品やプロフィールはこちら↓
公式FB・ Instagram ・blog 日々発信、よかったら繋がってくださいね
イタリアで美術を学んだ画家と、楽しい学びの時間

コメント

非公開コメント

トラックバック