風水少年タロウ君

雑誌を読んでいたら、「風水」で運気を呼ぶ〜
と あった。

 フースイ、、、
いまでは、すっかり認知度も高くなったが、
以前は、ごく一部の人しか知らなかった言葉だと思う。

 私も以前は、東洋の占いの一種くらいの
認識だった。
 その存在を強烈に意識したのは、20代前半。北鎌倉の絵の工房に通っていた頃だ。 

この学校は「油彩テンペラ(混合技法)」という
ちょっと珍しい技法を教えていて、
 その為かクラスの人数は少なめの、
のんびりした雰囲気だった。 
そこに新入生が入ってきた。
 彼の名は、タロウ君としておこう。 

最初の印象は、
ヒトと関わるのがあまり得意ではなものの、
朴訥な普通の普通の青年だった。
 ごく少人数のアトリエ。 
その中で一日中一緒に制作していると、
話をしなくても、イーゼル越しとはいっても 
クラスメイトの人となりとか、
いろんなことがわかってくる。
 で、ある事件をきっかけに、
彼の強い個性にも気づくこととなった。 
ある日、筆記用具を探していた私。
 アトリエには共同で使っている机があり、
ガタゴト引き出しを開けたら、見慣れぬものを発見!
 引き出しの奥の白い固まり、、
小皿に盛られた白のこんもりした山だった。

 ?! 

以前、引き出しを開けた時には、なかった白い固まり。
 しばし、仲間と顔を突き合わせて
この未知の物体を見つめていたのだが、
 誰かが「それ、お清めの塩じゃない?」と
言い出した。

 私が、おそるおそる舐めたら、確かに
しょっぱかった。
 しかし、塩がなぜ引き出しに?
また誰かが言った。 
 「もしや、フースイなんじゃない?」 
 それが、はじめの事件だった。

 タロウ君がお清めに使った盛り塩は、
のんびりしたアトリエの雰囲気を一気に変えた。
自宅でこっそりやれば問題なかったのだが、共同で使う机だったので、
先生からも撤去すべき
という指示が出て引き出しから塩の山は姿を消した。 
「ボクがせっかくアトリエを清めているのに、、、」
と 彼はかなり不満げ。
 その後、タロウ君の制作スペースを覗くと、
やはり、四隅には盛り塩。
 壁には、おもちゃの剣、赤いもの、丸いもの、 
その他、意味ありげなものが意味ありげに
置かれていた。
田舎からでてきた朴訥な外見からは想像できない
内面の世界をガッチリ持っているようだった。
結界の境界線が引かれてるか〜の如く、 妙な緊張感があった。
 (実際は、ドアもカーテンもない空間にも関わらず)
 タロウ君が不在の時も、そのスペースに足を踏み入れたら、 魔術にかかってしまいそうな、
そんな迫力だったのだ。
 「シラカワさん、僕の聖域を汚したでしょっ!」
 なんて見抜かれてしまいそうな。

 その後も、 “壁に大きいバナナの絵が描いてあった” 
(あれ?タロウ君の住まいは賃貸だったはず)
 “方角が悪いという理由で、行事に参加しなかった"
 "風水のお告げ?により、バイトを始めた” 
とか いろんなエピソードがアトリエ仲間で 飛び交った。 
 まあ、それでも、なんだかんだいいつつも、 タロウ君は初めての一人暮らしで、
 初めてのバイトをして、ガールフレンドも出来て 私達にも少しづつ笑顔を見せる様になってきた。 

滅多に笑わない彼が笑うと、なんだか貴重な ものを見せてもらっている様な
ありがたい気分になっていたのだが。

 夏頃だったろうか、 アトリエでのほんの些細なイザコザをきっかけに、
 再び、もとの頑なタロウ君に戻ってしまった。
 バイト先の住職さん(お寺の境内掃除のバイトだった) にも
可愛がってもらっていたのに、 "別に続けなくてもイイ”というお告げ”があったか 
いつの間にかやめたらしい。
そして、 アトリエにもすっかり姿をみせなくなってしまった。

 しばらくしてアトリエにあらわれタロウ君の顔色は悪かった。
「あまり、占いみたいなのに振り回されない 方がいいよ〜」と 遠慮がちに私が言うと、
 「風水は、占いなんかじゃありません! 統計学ですっ!」 赤い顔になって怒った。

 アトリエで浮いている雰囲気を察知したか、
 「この学校をやめて故郷に戻ることにした」と 挨拶にきたのが、秋頃。
 あともう少しだけここで踏ん張れば、 タロウ君の心の壁もとれて、
 きっと新しい世界が開けただろうに、 残念だったが、仕方ない。
 せめて、故郷に帰る理由を風水のせいに していない事を願うのみだった。

 あれから、何年もたった今、 タロウ君はどうしているのかなあ〜。
 風水,という言葉を聞く度に、 朴訥な風貌のタロウ君を 思い出すのだった。

丁寧に時間をかけた贅沢な作品は、目に見えない時間を閉じ込めたもの。
それが飾られた場所の空気を本物にします♫

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イタリアで美術を学んだ画家と、楽しい学びの時間

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