テンペラについて ①

テンペラというのは、5世紀のヨーロッパに誕生し、油絵が主流となるまでの15世紀末まで、
中世ヨーロッパで主流だった絵画技法、および、用いられた絵の具の名称です。

テンペラについて

Temperare・テンペラーレ=混ぜ合わせるという意味のラテン語が語源で、特徴として

美しい発色
黄変など経年劣化の少なさ
固着材(糊)*1 として卵 を使う*2

があります。*1 顔料(色の粉)を基底材(紙や板、キャンバス)に定着する為の材料
*2 殻でなく中味を加熱せず生で使用。グルーテンペラは膠(動物から取ったゼラチン質の糊)を使用。

サンドロ・ボッティチェッリ「ヴィーナスの誕生」(1483年頃)↓テンペラ画の代表作の一つです
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卵(卵黄)は、乾燥すると硬い皮膜を作ります。卵(卵黄)に含まれる”卵油”がゆっくりと硬化し、乾燥後の皮膜は耐水性となります。その性質が固着材(糊)に最適だった訳ですね。

5世紀のテンペラの登場から15世紀末に油絵(油彩)が主流になるまでの約1000年。
ある日を境に突然、テンペラ→油絵へ切り替わったのではなく、
当初は”卵黄テンペラ(テンペラマグラ”から始まり
”テンペラと共に一部に油彩を併用するオイルテンペラ*3(テンペラグラッサ)”が登場、
そして、油絵での表現が一般的となります。
*3 Wikipediaでは油彩テンペラ、混合技法 と表現。このブログでは便宜上、オイルテンペラで統一します。

私が表現として用いるのは、このオイルテンペラ(テンペラグラッサ)。”混合技法”とも呼ばれますす。基底材(絵が描かれる土台)から手作り、絵の具も手作り。また、グレーズを繰り返し、絵の完成まで大変時間と手間のかかる表現です。

20代で出会い、現在もこの表現方法を続ける理由は、テンペラの繊細(かつ堅牢)なタッチとグレーズを重ねる事で生まれる独特で深い色合いに魅せられたから、です。

(目に見えないはずの)時間の経過を感じさせる、漆器やアンティーク家具のような複雑で深い絵肌に究極の美を見出したから、とも言えます。
わかりづらい例えかもしれませんが、絵と向き合うたびに、何度読んでも新しい発見がある詩や本のように感じます。

色が剥がれ落ちた仏画にも、時間の経過とともに非常に魅力を感じるのですが、それは、私の母が書家だったこと、母が手仕事の美しいものに価値を見出し蒐集していた事等が大きく影響しているのでしょう。

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顔料(色の粉)がズラリ。PIGMENT TOKYOでは15gから量り売りしてくれます。
ラピスラズリの顔料は15gで3万円でした。高嶺の花、、、
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こちらが私が使う”テンペラ(オイルテンペラ)絵の具”の材料一式です。
左から時計回りに生卵(全卵を使用)、右上と右下はチタニウムホワイトの顔料、左下は
オイルテンペラのメディウム(全卵+樹脂ワニス・乾性油)。画材ですが、冷蔵庫で保管します。
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下の皿で練っているものが、テンペラ絵の具(白色・チタニウムホワイト)です。

生卵を糊がわりに使う画法、というと劣化や腐食について質問されますが、
テンペラ絵の具に使用する卵の量はごく僅かな上、絵の具自体も、面相筆(細い筆)でハッチング(細かい平行線を引く)や、ごく薄く塗る使用法です。劣化や腐食の心配は全くありません。
現在でも数百年前に描かれた当時のままの、鮮やかな発色のテンペラ画が沢山存在します。

丁寧に時間をかけた贅沢な作品は、目に見えない時間を閉じ込めたもの。
それが飾られた場所の空気を本物にします♫

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